「HUB-IBARAKI ART PROJECT 2020」開催概要
プロジェクト実施・開催期間|2020年3月28日(土)- 9月13日(日)
(※ 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発出に伴い、4月上旬から6月中旬まで活動中断)
作家|永井 寿郎
発表作品|《特別な場所-FIXATIF 2020》
ドローイングパフォーマンス:市内各所8か所で実施
写真作品:ソシオ-1 茨木ビル2階 ショーウィンドウ
テーマ|パブリックとプライベートの境界を考える
プロジェクト内容|茨木市内全域を対象とした作品制作・発表、トークイベント、コロナ禍の市民参加・交流の取り組みなど、7種類のプログラムを実施
チーフディレクター|山中 俊広(インディペンデント・キュレーター)
ディレクター|山本 正大(少年企画)
事務局|茨木市文化振興課
主催|茨木市、アートを活用したまちづくり推進事業『HUB-IBARAKI ART』実行委員会
ごあいさつ
『HUB-IBARAKI ART PROJECT 2020』は、東京在住の写真家、永井 寿郎(Toshiro Nagai, b.1973)を選定作家に、初めて活動範囲を市内全域に広げて開催します。
今年のプロジェクトの軸となる、永井の作品《FIXATIF 2020-特別な場所》は、市内各所の屋外空間でおこなう短時間のドローイングパフォーマンスと、その痕跡を捉える写真作品の発表、これら2つの形態で成り立つものです。チョークで路上や地面に絵や線を描く行為は、子どもの頃に多くの人が経験する遊びの一つです。家の側の空き地や道などをプライベートな空間として捉え、近隣に住む子どもたちが、一時的に占有を許されておこなう遊びと言えるでしょう。そんな慣れ親しんだ遊びの仕組みを、永井は場所に寄り添うことによりアートの表現手法として取り入れ、さらに本プロジェクトでは社会の仕組みを考察する手法として展開します。
---「パブリック」と「プライベート」の境界を考える
昨年末より市内全域を対象に現地リサーチをおこない、ドローイングパフォーマンスの実施候補となる場所を、永井の選択基準や運営側の提案により約20か所に絞りました。今後、場所ごとに順次進める交渉・許可手続を経て、期間中約10か所での実施を目指します。
ドローイングパフォーマンスの実施候補となる場所には、市街地や住宅地、公有地や私有地など様々な土地が含まれています。実施のための交渉や手続が公と民それぞれの範囲にあることから、実施するパフォーマンスの形態や規模も一つ一つ異なるものになると想定します。さらに、この実施に向けたプロセスと、市内に展開していく束の間の描きの行為、そしてカメラがとらえるまちの景色と行為の痕跡は、まちにおける「パブリック」と「プライベート」の概念や範囲のグラデーションを顕在化することになるでしょう。
茨木のまちを広く行き来しながら、土地そのものをなぞり、消し、またなぞることを繰り返していく今年のプロジェクトから、普段の生活から見えにくい「パブリック」と「プライベート」の境界やその差異に、意識を傾ける機会にしていただければ幸いです。
HUB-IBARAKI ART PROJECT チーフディレクター 山中 俊広
〇選定作家
永井 寿郎[NAGAI Toshiro]
1973年鹿児島県生まれ。1999年東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。現在東京都在住。
学生時代より写真家として活動をおこない、途中10数年間のブランクを経て、2016年より活動を再開。近年の主な発表に「スパイラル・インターナショナル・クリエイターズ・フェスティバル(SICF)」(SPIRAL/東京、2016、17年)、グループ展「脱衣所で芸術家と文通する日」(HITAKIBA/東京、2017年)
私は、世界全体を写真に納める事を目標に活動しています。
とはいえ、どれだけ大きなカメラにどれだけ広角なレンズを付けたとしても、
世界の全てを写し切る事は出来ないでしょう。
そのため、「世界を構成する普遍的な要素」をカメラで抽出することによって、
それが実現できないかを日々考えています。
今回のHUB-IBARAKIでは、この世界の断片のような要素を求めて、
茨木市全域を対象に人が住まう場所を巡ります。
撮影の対象とするのは、いわゆる「名所」とされるような場所ではなく、
「人の営み」と「時間」が積み重なって、目に見えない微細な変化を含有している「まちの風景」です。
どの場所も一見ありふれた風景なので、その普遍的な要素に触れ、抽出することは簡単ではありません。そのため、各々の場所を形成する要素を「直になぞる」という原始的な方法で確かめ、かたちにしていきます。
「ありふれた場所であっても、全ては特別な場所である」という事に気づいていただけるように努めて参ります。
どうぞご協力よろしくお願いします。
永井 寿郎
〇プログラムスケジュール
先般の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言の発出に伴い、4月上旬より対外的なプロジェクト活動を中断していましたが、6月16日(火)より茨木市内でのプロジェクト活動を再開しました。
それに伴い、各プログラムの開催日時、開催形態は当初の計画から変更いたします。
◯ 新型コロナウイルス感染症対策の動向により、プログラム開催の形式・内容が変更になる場合があります。最新情報は公式サイト・SNSをご確認ください。
◯ 参加費は全て無料、参加申込不要です。
※ アーカイブ情報の発信
ソシオ-1 茨木ビル 2階ショーウィンドウは、昨年と同様にインフォメーションコーナーの役割を担い、フライヤーの設置とプロジェクトの活動情報の随時更新をおこないます。またホームページ/SNSでも、一般公開するパフォーマンスの開催情報、実施済みの報告を随時発信します。
〇メインプログラム
◇ 永井寿郎《FIXATIF 2020-特別な場所》 作品発表
今年のプロジェクトの軸となる、永井寿郎の作品《FIXATIF 2020-特別な場所》 は、市内各所の屋外空間でおこなう短時間のドローイングパフォーマンスと、その痕跡を捉える写真作品の発表、これら2つの形態で成り立つものです。チョークで路上や地面に絵や線を描く行為は、子どもの頃に多くの人が経験する遊びの一つです。家の側の空き地や道などをプライベートな空間として捉え、近隣に住む子供たちが、一時的に占有を許されておこなう遊びと言えるでしょう。そんな慣れ親しんだ遊びの仕組みを、永井は場所に寄り添うことによりアートの表現手法として取り入れ、さらに本プロジェクトでは社会の仕組みを考察する手法として展開します。
☆ ドローイングパフォーマンス
日時:3月中旬~ 8月下旬
会場:茨木市内8か所で実施
永井が市内各所に赴き、地面にチョークを使って描いていく、1回あたり数時間程度の作品制作のパフォーマンスです。市内の屋外空間や道路など、期間中約10か所で実施を予定しています。
原則的に永井個人による制作形態となりますが、一部の会場では鑑賞者参加型での制作も予定しています。また会場の環境や新型コロナウイルス感染症拡大防止への配慮により、近隣住民のみの限定公開、または非公開となる場合があります。
※ パフォーマンス後のドローイングは原則として当日中に消し、後日現地でご覧いただくことはできませんのでご了承ください。(一部例外があります。)
☆ 写真作品展示
日時:3月28日(土)~11月30日(月) 9:00~20:00[会期中無休]
会場:ソシオ-1 茨木ビル 2Fショーウィンドウ
永井の作品の最終形態となるドローイングパフォーマンスの写真を、期間中随時追加・更新して発表します。
☆「特別な場所」を届ける(中断後の新企画)
日時:7月上旬~9月中旬
会場:茨木市内各所
永井がこれまで茨木市内で作品の制作・発表を重ねてきた物事を、市民に直接「届ける」ことを意図した2種類のパフォーマンスを複数回実施するものです。
新型コロナウイルス感染拡大によるプロジェクト中断・再開を経て、新たに作品を介した市民とのコミュニケーションの手法を模索することを目的とした取り組みでもあります。
参加者募集のご案内はこちら→https://www.hub-ibaraki-art.com/posts/8830148
〇関連プログラム
◇ バトンタッチトーク 冬木遼太郎 × 永井寿郎
日時:7月12日(日)14:00-15:30
HUB-IBARAKI YouTubeチャンネルにてライブ配信
ゲスト:冬木 遼太郎 氏(美術家、HUB-IBARAKI 2018-2019 選定作家)
本プロジェクト恒例のオープニング企画として、昨年の発表作家の冬木遼太郎氏をお招きし、今年の発表作家の永井と対談をライブ配信にておこないます。合わせて、今年のプロジェクト概要の説明もおこないます。
収録映像公開しています ↓↓↓
◇ 茨木芸術座談会 2020
日時:8月29日(土) 15:00-17:00
会場:Zoomミーティングにてオンライン開催(事前予約制、参加無料)
申込先:HUB-IBARAKI ART 実行委員会事務局
E-mail:bunkashinkou@city.ibaraki.lg.jp Tel:072-620-1810
一昨年から毎年開催している座談会では、茨木市内で芸術文化活動に関わっている方々との対話・交流を目的とし、参加者同士が芸術・文化について多様な価値観や考え方を共有する機会とします。市内市外、関連活動従事の有無に関わらず、関心のある方はどなたでもご参加いただけます。
◇ クロージングトーク
日時:9月13日(日)15:00-17:00
会場:HUB-IBARAKI YouTubeチャンネルにてライブ配信
ゲスト:平田剛志氏(美術批評、HUB-IBARAKI 審査員)
本プロジェクト作家公募の審査員で美術批評家の平田剛志氏をお招きして、今年のプロジェクトの動きを振り返ります。今年のプロジェクトの成果と課題を見直し、これからの HUB-IBARAKI 、アート、茨木市について考えます。
収録映像公開しています ↓↓↓
◯作家公募
作家公募期間:2019年9月~ 10月24日(木)
審 査:2019年11月上旬
制作準備期間:2019年12月から2020年3月まで
プロジェクト実施/発表期間:2020年3月28日(土)から7月12日(日)まで
作家公募 審査員:
木村 光佑
版画・彫刻家、京都工芸繊維大学名誉教授・元学長、茨木美術協会会長
雨森 信
Breaker Projectディレクター、大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員
平田 剛志
美術批評
山中 俊広
HUB-IBARAKI ART PROJECTチーフディレクター、インディペンデント・キュレーター
公募・審査講評:
今回のHUB-IBARAKIの作家公募は、全国各地から8名の応募がありました。前回の12名より減少しましたが、例年よりも公募期間を前倒しに実施したこと、また公募期間も短めに設定していたこともあり、今後の告知方法については改善の必要性を感じました。
2019年11月5日に、茨木市役所にて4名の審査員による審査会を実施しました。まずは応募者から提出された作品構想について議論が交わされましたが、一定のレベルに達しているものは無いという意見が多数を占めました。近年の公共性を考える傾向にある本プロジェクトの特性の把握、各々の作品構想をプレゼンする論理力、市民とのコミュニケーションを構築する手法についての実現性や分析が、どの提案にも不足しているものが多く、該当者なしとして不開催とすることも可能かという提案もありました。
改めて、審査員全員が再度全ての提出資料を見直す中で、永井寿郎氏の過去の作品資料にあった、空き地や道路に自らチョークで線を描き写真に収めた作品《FIXATIF》に関心が集まりました。この作品の手法を茨木市の各所で展開することにより、HUB-IBARAKIが近年取り組んでいるテーマ「公共性」の考察を深められる可能性があるのではという意見が出され、全会一致で賛同されました。審査会として、該当の永井氏の過去の作品を第一候補とし、本人の承諾が得られれば選定作家とするという結論となりました。後日、永井氏からこの提案に対して同意を得て、正式に決定しました。
今回のプロジェクトは、作家の提案よりも審査会の提案に重きが置かれた作品となり、運営側としても作家との協働の質がさらに問われていくものとなりました。この審査の経緯と結果を前向きに捉え、例年と違う作家の協働とプロジェクトの構築を模索しながら、HUB-IBARAKIにまた新たな蓄積を生み出していけるように努めてまいります。
HUB-IBARAKI ART PROJECT チーフディレクター 山中 俊広